観音山公園にあるケルナー広場の「ちょっと変わった遊具」を目にした時には、何の意味があるのか分からないかもしれません。けれどもそれはすでに大人目線。
子どもと遊びに出かけて「ここはいいな」と思える場所をご紹介しています。意味やこんな風な訳を考えるまでもなく、子どもが受け入れて人気なのが群馬県高崎市の観音山公園ケルナー広場の遊具です。
もちろん、こんな風な訳はちゃんとあるのです。そもそも遊ぶためにあるから遊具。もし、使い方に過剰な干渉があって、決まりきったやり方しか許されなかったり、何の挑戦もできないのであれば、それはただの道具。
それも敢えていうならば、大人の事情が反映されて、与える側の自己満足だけの道具に過ぎなくなってしまいかねません。
公園で遊ぶことの理想は、子どもの体も心も育まれること。そのためには興味を抱き、発想を浮かべ、立ち向かって、時には壁となることがあったり、乗り越える時が来たら喜びを感じたり、強く心が動かされる体験があったほうがいいです。
得難い経験値として心に刻めたならば、それに越したことはありません。日常生活でいつもあるものや景色とは、ちょっと違っているからこそいいんです! そこで湧き出る発想や感情を思う存分ぶつけられる遊具。
公園遊具の新潮流とでもいえるもの。抽象的なオブジェ系遊具とでも名付けたらよいのか、遊びの発想が思う存分広がり、挑戦に満ちたケルナー広場。いつものように独自に撮影した写真を満載してご案内します。
子どもが大型遊具で遊べる観音山公園ケルナー広場をしっかり解説!
2016(平成28)年3月、ケルナー広場がこれほど、理念を込めた形で実現したのは偶然ではありません。何しろ13年越しの想いが叶ったもの。遊具に込められた理念はドイツの遊具デザイナー、ハンス・ゲオルク・ケルナーさんが追求していたものです。
かといってケルナーさんが、日本の公園管理者の間でもてはやされていた訳ではありません。ケルナーさんの手による遊具が揃うのは、公園としては観音山公園が最初の事になります。
ケルナー広場はエントランス広場の正面の段丘の上段と下段、さらに2018(平成30)年に拡張となった幼児向けの広場からなっています。それぞれを詳しく見てみます。
上段のヘンゼルとグレーテルには最難関のお菓子の家
グリム童話の一篇となるヘンゼルとグレーテルがモチーフのスペース。段丘の上段はそのままの名前が付けられています。ここにはお菓子の家が設置されているのです。
お菓子の家が表すのは見かけでなく哲学のほう
童話では森に捨てられたヘンゼルとグレーテルが、辿り着いて閉じ込められるのがお菓子の家。文字通りお菓子でできた家ながら、それは魔女の罠であって子どもを太らせて喰らうための装置です。
ケルナー広場のお菓子の家は、お菓子の絵こそ少し描かれるとはいえ、童話のお菓子でできているというイメージを再現するのでなく、困難を乗り越えて滑り台で脱出することで、ストーリーのほうを代弁しています。
ケルナー広場ができたのは
世界中探しても100%安全な遊具などはない。大事なのは、子どもの危機回避能力を養うことだ!
とするケルナーさんの考えにある人物が触れたことがきっかけでした。
ヘンゼルとグレーテルの童話も、結末は魔女に食べられて終わりではなく、ふたりの機転と勇気で魔女を退治して、財宝を奪うことで将来を切り開くようになっています。
魔法の力など超常的な手段を獲得するファンタジーが、安易に提供される傾向があります。それを夢見ても、現実的な対処で役に立つのかといえば、全く話になりません。
大切なのは、できることできないことを見極めたうえで、できることをやり尽くすことです。
子どもが遊びを通じて自分の限界を体感できる
こともケルナーさんの抱く哲学のひとつ。
ケルナー広場のお菓子の家の報酬ともいえる滑り台の滑走は、難しいルートを踏破しなければ得られないものです。難しいといってもいじわるな困難が仕掛けられているのでなく、難しく見えるような演出がなされている感じ。観察して工夫を凝らせば乗り越えられそうな困難。
お菓子の家はもっとも高い難易度で作られているため、体力的な問題でいずれの機会になる場合もあるでしょう。その場合でも別ルートになる、幅広の短い滑り台も設置されています。
ただし絶対に問題を解決できる、安易な道は用意されていないように見えます。
お菓子の家の傍らにある幼児用のサイズのものでさえ、ある程度の難易度は設定されています。
もっとも段丘上段のヘンゼルとグレーテルが幼児を完全に拒否しているのでなく、それなりなものも、たくさん点在しています。
人気の鳥の巣ブランコの場合は…
これも上段に設置されているもので、幅広い年齢をカバーしそうな鳥の巣ブランコなども一例でしょう。鳥の巣ブランコの下に限らず、段丘の部分には玉砂利40 cm敷き詰める安全対策がなされています。
幼児がひとり、のんびりと揺られるのにピッタリに見えるこの遊具。それでもいいのですが、伊達に大きな籠がぶら下がっている訳でも、吊り下げる部分にしっかりカバーがされている訳でもないのです。
いっぱいあそぼう!ケルナーひろば KELLNER2017vol.4より引用
実際、鳥の巣ブランコについては、一度に大勢が乗っかって遊んでいます。公園で配られる広報誌KELLNERでも、そんな遊び方が紹介されています。そんなことが可能な対応力があるのです。子ども同士の協調性が育めるならば、公園はさらに価値が増します。
絵本を楽しめるゆっくりルーム・おはなしのへや
屋外の開放的な環境で絵本を楽しめるのは、やはり上段にあるおはなしのへや。観音山公園でもケルナー広場の管理・運営については、NPO法人時をつむぐ会が市から委託を受けています。代表の続木美和子さんは、市内で絵本屋さんを営んでいます。
そして、続木さんこそが、ケルナー広場を実現させた原動力。会ではいろいろなイベントも開催しています。平日は3~4人、土日なら5~6人が常駐してお世話をしてくれるのも、ケルナー広場が大胆な冒険を許容できる要因なのです。
上下段を結ぶのはチューブスライダー
段丘の上段から下段に向かっては、ステンレスのチューブスライダーが通っています。
このすべり台も入口からは、下が見えないのが特徴。さりげない工夫ながら、珍しいものです。
下段になるのはSIMSALABIM!
「無から何かを生み出す」を意味するのがSIMSALABIM。改めて見れば上段からのすべり台にも、そのように書いてあったのに気づくでしょう。下段のあらゆる遊具には、この表記がありSIMSALABIMなものが集まった場所ということになります。
メインとなるのは、主に木の柱や板が組み合わされた複合遊具。
何の定義もできなそうなものが、これでもかと集まっています。
率直にガラクタと感想を述べる子どももいるそう。けれどもそれは誉め言葉だと捉えられています。
なにしろガラクタだといって振り向かれないのではなく、目を輝かせていろいろな探求がなされているのですから。
他にもユニークなものがたくさん並んでいます。
トイレでさえこれです。果たして子どもの心にはどんな風に伝わるのでしょうか?
水遊び場もよくあるタイプではなく!
観音山公園では、プールも人気を呼んでいます。とはいえプールは夏だけのもの。代わりにプールを見下ろす位置に水遊び場が置かれています。代わりにといっても、これまた一味違う特徴的なものが、ケルナー広場には用意されています。
水遊び場といっても、じゃぶじゃぶ池とはまるで違うもの。何かといえば、水を使って遊ぶ遊具になっています。青い受け皿が何枚も重なりながら、斜面に沿って連なっています。一番上のお皿に水道の栓をひねって、水を出せば流れが生まれます。
それがただ流れ落ちるだけの、シャンパンタワーみたいなだけのものに収まっていないのです。栓をしたり、道具を使ったり流れを変えれば、水の行き着く先は変わってきます。どこの地面に水を落とすのか、それは子どもの発想に委ねられるものです。
KANNONYAMA MINI、幼児用遊具エリアは在りし日への想い
観音山公園では2018(平成30)年3月、さらなる拡張がありました。ケルナー広場に加わったのはKANNONYAMA MINI。オレンジ色の傘が並ぶエリアです。
知らないで行けば、休憩所? とでも勘違いしそうです。けれども近寄って見れば、9種類14基もの遊具が用意される幼児向けのエリア。
メリーゴーランドや車をイメージしたものが並んでいます。
ぐるりと巡って見ればピンとくるかもしれません。ヘンゼルとグレーテルやSIMSALABIMと違い、形はユニークながら、全体的に何か具体的なコンセプトで統一されています。
そうです、ここはここにかつてあった遊園地、カッパピアへのオマージュを込めて作られた場所です。全体的に乗り物のイメージがあり、足漕ぎで稼働するものもあります。
基本的に乗っかるという動作が、コンセプトとして揃っています。
とはいえ、こちらもケルナー広場の考え方に沿って、大人にとっては一筋縄ではいかない遊具も並んでいます。稼働するものは機能を理解しやすいものながら、金属受け皿のようなものなど最たるもの。
木のうねる板のものなども、何が面白いのかを説明するのはとても困難。それでも、うねりに仕組まれたタッチが、3通りに変わっている芸の細かさには注目です。
平均台を作るにしても、目指すのは体育の道具としてあるようなものでなく、あくまで楽しさを感じられる工夫のあるものです。
ケルナー広場の砂場はKANNONYAMA MINIにあります。やはり、乗っかってから遊ぶ仕様です。
ひとつだけ乗っからない遊びもあります。いろいろな音を鳴らしてみるもので、これは極めて機能的!
なにより注目!たまごロープウェイはレール渡りのレア遊具
ところでKANNONYAMA MINIのところで、ひと際注目したいのがたまごロープウェイ。
卵型をした籠(?)に乗って遊ぶ遊具です。
レールウェイもそこそこ長い設定。たっぷり楽しめるものです。気にしなくてはならないのは、他に待っている人がいないかどうかだけ。
面白いものでケルナー広場では、たまごロープウェイは変わったコンセプトの遊具になります。というのは、これは動かしてあげる遊具だからです。レールのすぐ下を押してあげないと動きません。
だから、これはまるっきり幼児用の遊具。
場合によっては、挑戦する心を育む意図も、強く感じるケルナー広場。こんなふうに、幼児の興味を無視したものではないのです。挑戦するのは、できる範囲で大丈夫。たまごロープウェイは、その中でたまごの大きさからいっても幼児スペシャル。
乗り降りする足場も片方にしかありません。1回分は往復と思ってよさそう。どうやって楽しむのか、これに関しては保護者が頭を使ってみてください。
遊園地だった広い敷地の残りは芝生広場などに
観音山公園というのは歴史が古く、1942(昭和17)年、白衣大観音慈眼院や清水寺、洞窟観音など周辺含めて、163.6 haを都市計画決定したものです。この年はミッドウェー海戦のあった年。この時点では子どもが遊ぶ公園とはなんら関係ありません。
戦後のサンフランシスコ講和条約が発効した1952(昭和27)年、この地で新日本高崎子ども博覧会が開催されました。50日間に50万人以上と大盛況でした。以後は一部施設を使った市営遊園地に!
1961(昭和36)年には上信電鉄傘下となり、高崎フェアリーランドとして営業。ケーブルカーで向かう大観覧車など、なかなか大掛かりな遊園地だったとのこと。1969(昭和44)年にはカッパピアとしてプールが開設され、この名称が一般化します。それが時代の流れと共に、2003(平成15)年11月をもって閉園となってしまったのです。
動き出したのは続木さん。カッパピア高崎どろんこの森構想を提案します。この頃の続木さんは、1994(平成6)年に発足した絵本読みの会を主催していました。常連だった絵本の店、本の家の経営をご主人と共に引き継いだところ、あまりの販売不振に始めた普及活動でした。
その後、活動の一環で著名絵本作家を招くなど、評価を築きました。評判のイベントを行い高崎市の名声を高めた実績は、後のNPO認証に役に立ったといいます。ケルナーさんと接触したのも活動の一環。その考えに大いに共鳴することになります。
カッパピアは閉園の翌年の2月、運営会社の高崎フェアリーランド株式会社が破産。その後、廃墟となった場所を面白半分に探検をする人などがいて、問題視されながらも放置されました。
ついに2007(平成19年)年1月、跡地で放火らしき火事があり、建屋全焼騒ぎなど起こすと、市が跡地と設備を買い取ることになりました。やっとカッパピアの跡地の活用に道が開けたのです。2008(平成20)年7月にはカッパピア跡地公園整備事業が認可されました。
この年、ケルナーさんは県内の富岡市立富岡小学校に、日本で初めて遊具を納品しています。2009年(平成21)年3月高崎市が観音山公園(カッパピア跡地)基本計画書を策定。この段階ではケルナー広場となる段丘は、はぐくみの丘ゾーンとなっています。
計画は自己責任で積極的に遊べ、自然とのふれあいを大切にしたゾーンとする 、市民主体の管理運営を目指す、周辺の樹林や竹林等を含めた活動エリアとする、創作遊具を設置するなど、続木さんの活動の影響らしきものを盛り込んだものになっていました。
ケルナーさんは、模型屋から始まった祖父の事業で人気のあった、ケルナースティックを復刻するなど、子どもと遊びに遊具デザインのみならず関わっています。2004(平成16)年に初来日して、玩具輸入代理店のアトリエ・ニキティキの講演会の話者を務めたりするようになっていました。
こうして続木さんとケルナーさんの想いが、交わる流れが生まれたのです。2010(平成22)年、再び県内の安中市赤心幼稚園へ納品した遊具は、絶好のプレゼンテーションとなります。2011(平成23)年カッパピア跡地の建物撤去が完了して観音山公園の整備は具体化します。
こうして2016(平成28)年3月26日、ケルナー広場はオープンを迎えたのです。遊具広場は当初計画から、ケルナーさんの哲学を受け入れることに変更されました。他にエントランス広場と芝生広場を含めた暫定開園でした。
改めてオープンした市営プールが人気、観音山公園プール
7月頭前後の土日から9月中旬まで(9月土日祝日のみ)オープンする、夏の遊び場となるのがプール施設です。2017(平成29)年7月のプールと残りのエリアの開園で、観音山公園の整備はひと段落したことになります。
かつて、ここにあった遊園地のカッパピア。乗り物に加えて、プールがとても人気でした。やがて破産した施設に変わり、公営で蘇ってやはり人気を集めています。
開場時間:9時~16時30分
利用料:100円(小学生未満無料、小学3年生以下は保護者同伴)
連絡先:027-386-9005(管理事務所)
- プールエリアについて
- 25 mプール(8コース)
- 幼児プール
- じゃぶじゃぶプール
- せせらぎプール(流水プール)
- 噴水エリア
- 休憩エリア
プール管理棟には授乳室も!
プールの開場期間に関わらず、管理棟も頼りになります。授乳室やトイレが利用できます。
エントランス広場の向かって左手に建物があります。
公園を散策して奥までいけば芝生の丘も!
公園内を散策して進めば、スノーピークが販売しているユニットの建物に、カフェがあってひと休みできたりします。
さらに進めば、芝生の広場の一番奥は大きな斜面になっています。ケルナー広場のみならず、こちらもいろいろな使い道がありそうです。
観音山公園を訪れるには(アクセスについて)
住所:高崎市石原町2740-2
連絡先:
027-386-9005(観音山公園管理棟)
027-352-4613(ケルナー広場、NPO 時をつむぐ会)
開園時間:9時~17時
閉園日:年末年始(12月29日~1月3日)
【自動車を利用する場合】
駐車場:無料(約250台)
エントランス広場のところにある最寄の駐車場が第1駐車場です。
第2駐車場はエントランスのところから、白衣(高崎)観音のある山頂方面に少し登ったところにあります。こちらのほうが広いです。17時15分に閉門すると、翌日まで出庫できないのでご注意下さい。
最寄インターチェンジ:関越自動車道路高崎、上信越自動車道路吉井(約10 km)
高崎市街地を抜けることになる高崎I.Cに対し、吉井I.Cは検討する価値ありです。高崎玉村スマートI.Cはほんの少し距離は長くなるとはいえ、東京方面からならばトータルの距離は高崎I.Cより短くなります。
【公共交通機関を利用する場合】
最寄り駅:JR・上信電鉄高崎駅西口8番乗り場よりバス便18分ほど
最寄バス停留所:観音山公園(市内循環バスぐるりん観音山線)
ぐるりんは第1駐車場内に停留所があります。高崎駅より片岡・観音山コース下りは18分ほど、農二・染料植物園コース下りは28分ほどの所要時間となります(巡回コースどちら回りかで距離が違います)。
関連サイト:市内循環バスぐるりん
プールの開場期間は加えて臨時バスの運行があります。臨時バスの停留所は公園前の道路になります。ぐるりんと違う場所なので注意が必要です。
臨時バスルート:高崎駅~観音山公園~観音山山頂を双方向で運行
高崎駅発が8時~14時の間に5本、公園からは10時~17時の間に5本運行します。
連絡先:027-350-7180(上信電鉄高崎営業所)
まとめ:ケルナー広場の遊び方とは
ケルナー広場にはケルナーさんの哲学を伝える看板が掲げられています。KANNONYAMA MINIはカッパピアへの敬意から考えたことも、ここに記されています。
ケルナー広場の遊び方についても語られています。
親愛なる子ども達 親愛なる保護者たちへ
気持ち良く 自由に 心を開いて
おもいっきり自分を試して遊んでください親へのお願い
子どもが遊ぶ時に手助けしないでください
補足するならば手助けをしないけれども、しっかり見守って下さいということです。運営サイドでも、その点はしっかりお願いするとのこと。観音山公園ケルナー広場を活用できるかどうかは、保護者の方への試金石になるやもしれません。