コラム

皮膚科医、扇谷咲子先生のスキンケア講座



皮膚科を専門に診療に携わっている医師の扇谷咲子です。フェンテさんからスキンケアについて、知っておくとよいことを解説して欲しいとご相談があったので、私の診療で伺うことのある、皆さんのお悩みごとなどを思い出しながらお話させて頂きたいと思います。

具体的になにかトラブルがあれば医師がしっかり診断して、適切な治療を行います。必要であれば投薬を行い、治癒できるように処置していきます。医師が投与するのは、処方箋医薬品といって厚生労働省が、治験を重ねて効果や安全性が確認されたものです。

そうした医薬品には効能とともに、場合によっては副反応が出ることもあります。患者さんに、今、体や皮膚でどういうことが生じていて、なぜこの薬や処置が必要なのか! などを説明して理解してもらえるように心がけています。

扇谷咲子先生ご執筆の扇谷咲子先生

こんな些細なことで受診をしても良いのか? と思うことでも、気軽に相談に来てください。色々自己流の処置を行ってから受診なさると、何が最初の原因だったかわかりづらく、治るまでの遠回りになることもあります。

また、良かれと思ってやっていることが、実は悪化原因だったり、ということもあります。そうはいっても、特に気になる症状やトラブルなく、生活にも何の支障もないならば、お薬は当然のこと、特別な手当は必要だとは思いません。

しておいたほうがよいスキンケアってどんなこと?

ならば必要な、もしくはできればしておいたほうがよさそうなスキンケアとはどんなことになるのでしょうか。フェンテさんはママフェンテというブランドで、子育て中のお母さんに向けて、それはお父さん含めてなのでしょうけれど、子どもと関わる生活を主なテーマにしていると伺っています。

大人とは違う子供のデリケートな肌のために考えたいこと

子供の肌がデリケートということを考えると、できればしておいたほうがよいと思えるスキンケアはあります。お母さん、お父さんであればキレイを維持したいとか、もっとキレイになりたいと思ってスキンケアを考えることもあるのでしょう。

ただし特に赤ちゃんの場合には大人の肌とは基本的に違っています。表皮と言われる、最も外側の層は、大人でも約0.2mmほどですが、赤ちゃんの肌はさらに半分の厚さしかありません。そのうえ、バリア機能が不完全なため刺激に弱く、とてもデリケートです。

赤ちゃん肌の特徴

  1. 表皮が薄く、外的刺激に弱くバリア機能が未熟
  2. 水分保持力が弱い
  3. 汗っかき
  4. 紫外線に弱い

2について【出典】川尻康晴 他 / 乳幼児の皮膚生理特性 第一報.日小皮会誌 12,77-81,1993

こうした状態から成長と共に、大人の肌になっていきます。バリア機能というのは、皮膚は直接外の世界と接しているので、こすれや圧迫などの物理的なもの、汗などの科学的な刺激から絶えず傷つけられています。それを防御する機能が備わっているため、そうしたものを皮膚のバリア機能などとご説明しています。

また、子どもなら外で元気に遊んでくると、いろいろと汚れて帰ってくると思います。その汚れを落とすために、顔や手を洗うということも立派なスキンケアといえます。病原菌を持込まないということにも有効ですが、スキンケアの第一歩として大事な習慣だといえます。

生活習慣としてのスキンケアを考えると

医師が診断して治療する事とは違う、生活そのものであるスキンケアとはなんでしょうか。

スキンケアとはなにか

  1. 汚れをおとす
  2. 水分や美容成分を補う
  3. 保持(補給した水分や成分を肌にとどめておく)

スキンケアを分類すると、この3点になるといえます。まず、適切に汚れを落として、受け入れやすい状態を作る、そして与える。美容成分を補うというのはお母さん、お父さんがキレイを維持したい、老化したくないなどの思いも加わるでしょう。せっかくだからその状態をキープするのも目的になる訳ですね。

それはそれとして水分を補う、それを留めておく、つまり保湿に気を遣うことは、肌にトラブルがあって治療を進めるときにも、非常に大事でしっかり意識しています。また保湿が充分ならば、トラブルを予防する効果も期待できます。

スキンケアは予防や治療の第一歩

皮膚科の日常診療で、よく患者さんから「アトピー性皮膚炎ですか?」と聞かれます。厳密にいえば、アトピー性皮膚炎と診断するには、定義と診断基準があります。アトピー素因と言われる、本人や家族のアレルギー体質を持つことは大事な要件です。

アトビー性皮膚炎の診断・治療

アレルギーや免疫と関わりがあるため、アトピー性皮膚炎の患者さんも、幼少時は症状が出ていても次第に、皮膚トラブルを起こさなくなるケースも多くみます。そのため治療の目標も「症状がないか、あっても軽くて、日常生活に支障がなく、薬物療法をあまり必要としないこと」を見据えます。

アトピー性皮膚炎の治療
  • 薬物療法(適切な部位に適切な強さのステロイドやアトピー性皮膚炎治療のための処方薬)
  • スキンケア
  • 悪化要因の対策、除去

その中で最も簡単なのは、汚れを落とし、水分や美容成分を補い、保持(補給したものを肌にとどめておく)するスキンケアだと思っています。簡単だけれども重要なことで、それは保湿をしっかり! ということがベース。基本です。

日常生活で心掛けるスキンケアならこんな感じで!

もちろん、投薬治療をすることもスキンケアには違いないのですが、皆さんが日常生活で医師の指導によらずともすこやかに暮らすためにできること、トラブルの予防効果も期待できることとしてのスキンケアならばこんな感じ! ということをお話します。

成人の患者さんに、治療薬や保湿剤を1日2回外用してほしいというと

「朝は忙しくて無理」「先生、体全体に軟膏塗るのに何分かかると思うの? 本気で塗ると10分かかるよ」「背中は手が届かないよ」「軟膏はべたついて嫌」「下着に軟膏がついて、吸い取られて、下着が黒ずむ」

などのコメントをもらうことがあります。そんな中でできれば心掛けて欲しいことならば、次のとおりです。

スキンケアのタイミング

やはり1日2回がベスト! 最低でも、入浴後に1回はマスト!できれば、入浴後20分以内に完了させてほしいです。肌の上に水分が残っている状態で、バーーーッと一気に伸ばすことが大切です。

水分が残っている状態で行うと、表面の角層が柔らかく浸透がよく、使用する保湿剤の量の使い過ぎが防げます。

保湿剤などの適量は?

「適量はどれくらい?」と聞かれたときに、「肌の見た目が、ツヤッ、テカッとする程度。ティッシュが一瞬張り付いてハラリと落ちるくらい」と表現します。

具体的には、「finger tip unit」といって、人差し指の先端から第一関節部まで口径5 mm のチューブから押し出された量(約0.5 g)が成人の手のひら二枚分、すなわち成人の体表面積のおよそ2 %に対する適量であることが示されています。

適量を使用するためには、ポンプ式で蓋が無い、ということは日常生活でもちょっとしたことですが、とても便利です。毎日の習慣づいた行動では、そのひと手間が無いことは継続には大事です。

スキンシップや手当てとしてのスキンケア

「肌と肌のふれあいによって親近感をはぐくむこと」も、スキンケアを心掛けるひとつの意味。背中など、手が届きづらい部位に軟膏を塗ってもらったり、背中のマッサージをエステやマッサージ店で受けると、なんとも言えない心地よさを感じると思います。

薬効や手当ての具体的なことには当たりませんが、お子さんも温かい手で軟膏やクリームを塗ってもらうときの心地よさに、安心感、嬉しさを感じ取っているはずです。

手についた軟膏やクリームのこと

消費者センターにも多くの「誤飲」の相談はあるようです。消費者庁の調査では3年間で約3万件の相談があり、その中で有症は565件というデータがありました。日常診療でも、「軟膏を塗った手をなめたり、顔に塗って口に入っても大丈夫ですか?」という質問をよくうけます。

「たとえステロイドであったとしても、軟膏チューブを1本食べてしまっても問題ありません」と答えています。軟膏の99%は白色ワセリンと流動パラフィンです。人間は各種パラフィンを分解する消化酵素を持っていないため消化できません。

なので、パラフィンを食べると油便となって、排便されます。また、ステロイドの「テクスメテン軟膏」のインタビューフォームの22頁に「過量投与」について

  • 通常の幼少児の誤飲程度では、ほとんど症状は現れない。
  • 大量に誤飲すると、軟膏、クリームの基剤(油脂)により、一過性の嘔吐、腹痛、下痢を起こすことがある。

と記載されています。

参考リンク:「テクスメテン軟膏」のインタビューフォームの22頁

アトピー性皮膚炎と診断する定義と診断基準

また、アトピー性皮膚炎についてお話をしてしまったので、この話題は難しい面があります。念のためもう少し詳しく説明しておきます。

アトピー性皮膚炎と診断する定義


皮膚症状がよくなったり
悪くなったりを繰り返し
強い痒みのある湿疹がみられ
〝アトピー素因”を持つ

アトピー素因とは

  1. ご家族や患者さん自身が、喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちのいずれか、あるいは複数の疾患にかかったことがある
  2. IgE抗体を産生しやすい素因がある

診断基準

  1. 強い痒みがあること
  2. アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹(湿疹)があり、またからだの左右対称性に湿疹がみられる。湿疹は、生えぎわ、目の周り、口の周り、首、手足の関節の内側、などの柔らかい部位にあらわれることが多い。
  3. 皮膚症状は改善したり、悪化したりを繰り返すことが特徴。慢性(乳児は2か月、それ以外は6か月以上)的である。

強い痒みだけでなく、2、3の要件を満たして、アトピー性皮膚炎の診断となります。

診療の結果では自称でしかないことも

〝自称、アトピー性皮膚炎”という方が多いことを日常診療で経験しています。もちろん、大人になってから発症するケースもありますが、比較的まれで、乳児、幼児に多い疾患です。

皮膚バリアが成熟してくると、季節の変わり目や、疲れた時、ストレスがかかった時、など、たまに悪化してその時だけ、皮膚科に通院する程度に落ち着く方も多くみられます。

季節の変わり目などに、肌トラブルを起こして、久々に皮膚科を受診した患者さんには

  1. 幼少時、関節部(肘の内側、膝裏)に湿疹を繰り返して皮膚科に良く通っていたか?
  2. 肘の内側の黒ずみ(色素沈着)のチェック
  3. 乾燥肌か

の3点を確認します。

これらを満たすと、アトピー性皮膚炎の悪化、再燃と判断することが多いです。

生活習慣としては保湿、肌のバリア機能の維持を心掛けて!

こうした診断となった場合でも、皮膚科医的には、「保湿だけで、お薬いらず!」というのが目標です。

もちろん、遺伝的な側面や肌のバリア機能が弱い、ということがあるので、最低限の保湿だけでは落ち着かない場合は、適切なお薬を使用して荒れた状態を長引かせないことが大事です。

医師の診察

乾燥により皮膚のバリア機能が弱まっている状態では、様々な物質が皮膚から侵入しやすくなります。アレルギーを引き起こす元となる「アレルゲン」が皮膚の表面に付着したままになっていると、侵入して「アレルギー症状」をおこしやすくなってしまいます。

乾燥肌の傾向のある赤ちゃん、乳児に対するスキンケアは、その後発症する様々なアレルギー疾患の予防が期待できます。

私の友人の皮膚科医師は、夫婦ともに、アトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎であり「アトピー素因」を持っていました。お子さんに対して、乳児期から徹底した保湿を心がけていたところ、小学生になったお子さんは全く皮膚トラブルがありません。

皮膚バリアを整えて、反復するアレルギー反応を生じさせないことは、スキンケアにとっては大事だと考えています。

投薬してでも保湿を目指す場合とは

「苔癬化(たいせんか)」という、皮膚がザラザラして硬くなる状態が長く続くと、黒ずみや色素沈着が残ってしまいます。場合によっては処方せんの必要な保湿剤の投薬で、保湿状態の維持を目指すこともあります。投薬の目的は次のとおりです。

保湿外用薬の使用について

アトピー性皮膚炎では,皮膚バリア機能と保湿因子が低下しているため.角質層内の水分含有量は低下し、特徴的なドライスキンとなります。

そのため非特異的刺激による皮膚のかゆみを生じやすく,また,種々のアレルゲンの侵入が容易になって、皮膚炎を惹起しやすいと考えられています。

保湿外用薬(保湿剤・保護剤)の使用は,アトピー性皮膚炎で低下している角質層の水分含有量を改善します。そうして皮膚バリア機能を回復・維持することで、アレルゲンの侵入予防と皮膚炎の再燃予防、痒みの抑制につながることを目指します。

このように治療の過程でスキンケア保湿を維持できれば、それに越したことはありません。治療薬の投与までは至らない時でも、保湿できていることに意味はあります。

スキンケア総論

医師が関わる治療としてのスキンケアというだけでなく、みなさんが普段の生活で心掛けてもらえることでも、大事な意味を持つケアがあります。

その中でとても重要なのは保湿。トラブルの予防に役立ちますし、リスク要因をお持ちの場合には、心配を取り除くことに繋がります。

富山県魚津市、扇谷医院玄関咲子先生の扇谷医院は三代に渡り地域を支える名門医院

幾つか実際にリスクになることをお話しました。「アレルゲン」と接触があった時、皮膚バリアを整えておいて、反復するアレルギー反応を生じさせないことは、意識すると肌トラブルを防げます。

肌の状態が不安定だと、本人も周りも気になるものです。心身ともに健やかに過ごせるように、日々のスキンケアに少し興味を持っていただければ嬉しいです。

富山県魚津市、扇谷医院かつては入院患者にも対応していた扇谷医院では、咲子先生の皮膚科診療でさらに幅広く対応。

ただ少しでも気になることがあったら、自己判断に任せず、まず診察に訪れてください。そんな時に遠慮はいりません。気軽に受診してくださいね!



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